Tea House Competitionの経過と建築実施コンペの問題点

Tea House Competition 経過報告

Tea House Competition は、六花亭製菓株式会社が北海道河西郡中札内村に計画中の「六花の森」に、誰もが気軽に使用できる「おにぎり屋」の実施計画案を募集するものであった。単独審査員として五十嵐淳氏を迎え、応募総数853作品を集めた国内の実施コンペとしては過去最大級となった注目のコンペである。そして、2008年3月21日に札幌で行われた最終審査で最優秀賞を勝ち取ったのが中山英之氏の「草原の大きな扉」であった。

その「草原の大きな扉」が法的条件に関して関係役所とのうまく摺り合わせできなかったという理由で、建設を見送る旨の発表が2008年6月に六花亭製菓株式会社の関連会社である株式会社サンピラーからなされた。その全文をここに引用する。

六花の森「tea house competition」
実施見送りに関するお詫びについて

 今回のコンペに対して、全国各地より多数の方々の御応募を頂きました。又、審査他コンペ進行には、各位関係者の御尽力を賜り、最終審査を経て、実施の前段まで至りました。
 「おにぎり屋」建設実施に向けて、運営側である当方、株式会社サンピラーは建築に関わる関連役所協議に入りました。その中で、当方が企画した物と法的条件に差があり、何度か摺り合わせを試みましたが、説得には至りませんでした。
 企画を発案し、又建築を営む当社としてコンペに不慣れであった事等、言い訳にしか成りませんが、与条件他未熟さ故しかありません。
 応募下さいました方々に深くお詫び申し上げます。
 関係者のご理解を頂き、建築実施については見送りする事と致しました。悪しからずご了承下さいます様、お願い申し上げます。

実施運営担当者 株式会社サンピラー

http://www.rokkatei.co.jp/facilities/index2.htmlより引用)

私たちは実施見送りになった詳しい経緯を聞くために、株式会社サンピラーに問い合わせた。しかし回答は以下にとどまり、正式な理由や具体的な経緯を聞くことはできなかった。
「関係役所に問い合わせがいくなどの迷惑が掛からないよう、あえて具体的な表現を避けている。この発表以後、多くの方から電話やメールで問い合わせをいただいており、都度同様の回答をして説明責任は果たしたものと考えている。またサンピラーの名で発表しているが、これは六花亭による正式発表に値すると考えていただきたい。」

そこで、単独審査員であった五十嵐淳氏にインタビューを行った。

五十嵐淳氏インタビュー

「六花亭からコンペをやりたいと相談を受けたとき、若手建築家にとって適当な規模の、非常に面白いコンペになると直感した。成功させたいという強い気持ちが生まれて、要項づくりからWEBサイトの立ち上げと運営、広告などの一切の作業を担当した。その場でおにぎりを握って出すという形態は当初からあったが、要項内に建築に関する具体例は入れず、用途のみを示して自由に案を募集することにした。」

現に853点もの作品を集めた本コンペは、参加者に新鮮な印象を与えたと言えるだろう。それだけに最優秀賞を勝ち取った中山英之案の建設には多くの期待が寄せられていたはずだ。「とにかく建てるという目標しか頭になく、審査終了後も建設のために全面的に協力した。敷地の決定から木材の調達や施行方法の協議など、順調に進んでいったと思う。」

では発表にある関係役所との摺り合わせとは何であったのか。「保健所からある指摘があった。大きな開口をもつ建築形態に、衛生面で難色を示すものだった。周囲に農場や牧場が点在する今回の敷地は、砂や埃、ハエやアブなど虫の侵入があるため、全面開放の建築に飲食店許可は出せないとの見解だった。そこで中山氏は対策案を検討したが、今度は六花亭から、用と美の両方を満たす案でなければならない、そうでなければ建てる意味がないと言われるようになった。中山案の魅力が失われるようなら建てる意味がない、と。その後、一旦このプロジェクトを棚上げしたい、という連絡がサンピラーから入った。それは保留にするという意味だと受け止めていたが、後日、六花亭のサイトで実施見送りのコメントが出ていると知った。」

Tea House Competitonはまだ終わっていないと五十嵐氏は言う。「六花亭に、実施コンペの意義や建てるということの責務について説明をし、書面にして提出もした。若い作家にとって、このコンペは夢を持てる内容で、まさしくチャンスだった。参加者は建てるという夢をもって時間と労力を費やし、結果853点もの作品が集まった。自分はいまでも、建てられるべき、建てたいと強く思っている。今後も六花亭に対して説明を続けていくし、それは自分がやらねばならないと強く感じている。」

実施コンペの問題点

建築プロジェクトは常に一筋縄では行かない。様々な関係者の思惑、大きな工事予算、法的条件など多くの問題をクリアしなければならない。そのプロジェクトが新しいアイディアを伴っていればいるほどハードルは高くなり、実施コンペの場合、建築家とともに主催者も、完成に漕ぎ着けるための様々な困難を乗り越えなければならない。

『建築の設計案が複数以上の建築家の競作によって選択され実施された歴史は、ルーブル宮以来とされているようだが…(中略)…ルーブル宮以前にみられる競作を挙げれば、サンピエトロ寺院や、1418年のサンタ・マリア・デルフィオーレがある。後者の場合、ブルネレスキが一等に選出されていながら、実施管理の地位を獲得するために、三カ年もの長い闘争をしなければならなかったことなど、興味深い史実が残されている。』(「建築設計競技 コンペティションの系譜と展望」 近江榮著 鹿島出版会刊より引用)

Tea House Competitonの今回のような問題を回避する手段の一つとしては、実施に関する主催者の義務などを応募要項に明確に記述することがあげられる。
Tea House Competitonの応募要項は、国内の他の実施コンペと比較しても全く遜色のない十分とも思える内容のものだが、海外の成熟した実施コンペの要項では、主催者の義務が詳細に規定されている例が多く見られる。例えば、レバノンの総合芸術文化施設の実施コンペ「House Of Arts And Culture」の要項には、「審査員の決定は絶対」「優勝者と審査終了後24ヶ月以内に契約しなかった場合、主催者は賞金と同額を賠償金として支払わねばならない」「賠償金支払い後も建設実施の責任に変わりはない」とある。Tea House Competitonの応募要項には、「最優秀賞に選定されたコンペ案は設計監理契約を結んでいただき実際に施工を行います」とだけあった。このような文言で主催者側の義務範囲を明確にするのは困難だ。一種の契約書とも言える応募要項には、様々なトラブルを想定した厳密な記述が必要であることがわかる。
また国内コンペ全般で見受けられる応募要項の不備としては、著作権や応募者の匿名性に関する記述が曖昧なものが多く、改善が求められる。質疑を受け付けないコンペに至ってはまったく論外だ。
今後、主催者がこれらの不備をなくすよう努めることはもちろんだが、参加者が自ら主催者に問い合わせ、条件を明確にするよう働きかけることも重要な責務である。

『…すぐれた才能の人を、その出現の当初から正しく認めて、満幅の信頼を寄せるという政治的な抱擁力ほど、その国の精神の高さをはっきり示すものはない』(「空間・時間・建築2」 S・ギーディオン著 太田実訳 丸善刊より引用)

これらのコンペの現状を、あなたはどう見るだろうか。五十嵐氏と中山氏はいまもTea House Competiton建設実現に向けて、その方法を探っている。みなさんが思うことをぜひ聞かせてほしい。

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コメント [ 5 ] 

#19: 石王紀仁建築設計事務所 (2008年11月20日)

私もこのコンペに参加したもののひとりです。一時審査の通過案を拝見し、実現不可能な案が多数採用されていることに違和感をおぼえました。経験上、飲食店の設計には関係機関(保険所等)との折衝が不可避でありました。ときには、手洗いの設置場所ひとつで設計変更を余儀なくされることもありました。
このコンペが実施されなかった要因は、主催者および審査員の経験不足と無知の結果なのではないでしょうか?

#18: アキチ代表 弘田七重 (2008年10月20日)

中山英之氏から当サイトにメッセージをいただきました。この場を借りてご紹介させていただきます。

AKICHIATLAS 御中

Tea House Competitionの顛末をAKICHIATLASにてレポートして下さったことに関しまして、本来ならば何らかの形で状況報告せねばならない立場にあった当事者のひとりとして、この場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。

私個人としましては、ある地方都市を代表する企業と建築家から発せられた今回の呼びかけは、日本の建築文化を活気づける、とても意義深いメッセージであったと感じております。結果として、畜舎の点在する敷地周辺の環境に計画建物の用途が適合しにくい状況であることが判明し、建物の実施を棚上げせざるを得なくなってしまいました。しかし、プロジェクトが実施に至らないことで、この新しい試みが挫折したとは思っておりません。

コンペティションを通じて発せられたメッセージが、今後も何らかのかたちで継続することを、あるいはこの事例が、日本全国から新たなメッセージが発せられる契機となることを、心の底から期待しております。

中山英之建築設計事務所
中山英之

追伸:建物の実施設計は、2008年7月時点でほぼ完了しております。また、五十嵐淳さんを中心に、場所や用途を変更しての実施を目指す活動を精力的に行っております。

#15: 吉田研介 (2008年8月11日)

吉田研介建築設計室(http://chicken-house.jp)代表の吉田研介と申します。「TEA HOUSE」のコンペはうちのスタッフも応募していて少なからず関心を抱いていましたが、一等の「実施案」を見て度肝を抜かれ、一層興味を持っていました。ところがこの顛末(と言うには早過ぎますが)を知って更に注目をしています。と言いますのは、私も今、たまたま学生相手の「実施コンペ」の審査員(他に平倉直子氏、高砂正弘氏)を引き受けていて、620案の応募を受け、8月23日に二次審査、実施案決定という最中にいるので、他人事ではないと思っているところです。

「実施コンペ」は複雑でデリケートな問題を含んでいます。それぞれ事情が微妙に違うので、そしてそれによって判断と対処が違うので、是非正確に詳細に経緯と状況を知らせて欲しいと思います。それを拝見した上で考えをまとめたいと思いますが、一つだけ過去の例を言わせて頂きます。

それは20年前に行われた路面電車の駅に隣接する「コミュニティ施設」のコンペでした。一等当選案は駅と接する広場に、そこを通る「世田谷線」を引き込み、ある時は電車が入ってきて美術館になったり、また出て行ったりという「アイデア」を提案し、審査員からそのアイデアが絶賛され、それが根拠となって一等になり実施されました。ところが実際にできたものは、法規制によって広場への[引き込み線]は無くなっていました。建物はそれなりに優れたもので、あえて批判はしませんが、コンペにおいて肝心で核心の「アイデア」が法規制によって実現不可能となった時、これは審査側が責任を取るべきだと思いました。それについては「建築設計競技選集」(メイセイ出版)で強く批判しました。

「実施コンペ」の場合、応募者に建築士や事務所登録の資格を求め、実施の責任は応募者が負うものと、学生など資格を問わない場合があり、実施を進める中で「不可能」が生じた場合どうするかなど、ケースバイケースで非常に難しいものです。しかし大いにありうる事で、今回も十分精査し社会的にも建築家の責任を明確にしなければならないと思います。せっかく与えられたチャンスを、「やっぱり建築家に頼んだらろくな事にはならない」という風潮にならないように、今回も責任もって処理していただくよう、そしてその結果を公表して頂くよう関係者に期待します。

#14: 山本理顕設計工場 副所長 西倉潔 (2008年8月 6日)

私は山本理顕設計工場の副所長です。
私たちは、現在、群馬県邑楽町と建築家(原告25名)集団訴訟を行っています。コンペ案が不当に廃棄された場合、コンペ参加者に対して主催者はどのように責任を取るべきかを訴えています。
今回の要項中「最優秀賞に選定されたコンペ案は設計監理契約を結んでいただき実際に施工を行います」の部分は、邑楽町の場合とよく似ています。法的には十分責任を問える文言かと思います。
各種建築職能団体がこのような場面で支援をして行く事も重要だと思いますが、実際はあまりありません。また、建築家集団裁判は、9月9日は東京地裁で山本理顕、伊東豊雄氏の証人尋問が行われます。

#13: アキチ代表 弘田七重 (2008年7月31日)

記事公開初日で500件を超すアクセスがあり、Tea Houseに対する関心の高さを実感しています。五十嵐さんと中山さんのお二人からは、ここに書かれていること以外にも様々なことをお聞きし、どのような記事にしようか正直迷いました。でも今回の問題は、おそらく誰が悪いというものではなく、全ての実施コンペにおいて起こりうることだと思い、このような記事に至りました。
このコンペを期待して見ていた一個人としては、やはり中山案を実現してほしいと思っています。お二人はいまも実現に向けた努力をされており、その一助となることを願ってこの記事を書きました。みなさんの声が新たな展開につながるかもしれません。ぜひ、ご意見をお寄せください。