藤本壮介建築設計事務所:佳作 / 上州富岡駅舎設計提案競技

明るい森

富岡製糸場(世界遺産)の玄関口にふさわしい場所として「明るい森」を提案します。
明治時代、先人たちは暗い森を切り開き、知恵と技術を駆使して、富岡製糸場をつくりあげました。
それは近代の最先端の技術と理想でした。
21世紀の現代、ふたたびこの富岡の地で、未来を切り開く最先端の技術と理想とは何でしょうか?
僕たちは、それを「明るい森」と呼びたいと思います。
それは自然と人工物の新しい共存を作り出します。空間的にも、環境的にも、設備的にも、都市的にも、そして富岡のシンボルとしても、森の木々と人工環境が相補的に寄りそいながら人々のための場所を作り出します。光にあふれる「明るい森」は、富岡製糸場を作り上げた先人たちの精神を引き継ぎ、これからの富岡を形作る基盤としての森です。
「森」は富岡製糸場の原点でした。「明るい森」が、新しい富岡の原点となることを意図しています。


- 富岡のシンボルとしての「森」

富岡のシンボルとして、敷地一帯に細長い「森」によってつくられる駅舎を提案します。「森」は富岡製糸場をはじめとする、富岡の産業を支えてきたシンボルといえます。駅前通りの軸線上には、常緑樹の「森」が一年中生い茂り、電車でくる観光客には、彩り豊かな「森」が迎え入れます。世界遺産の観光都市につくられる新しい「森」は、これからの富岡にとってのアイディンティティとして、この場所を訪れる人々に印象的な風景をつくり出すだろうと考えています。

- 地域の拠点となる「森」とレンガの空間

周辺環境における「森」の役割
環境広場と連続的につくられる「森」は、周辺の施設や交流広場、交通機関を繋ぐ地域の拠点となることで、周辺施設との連携を強化します。また、細長い「森」をつくることで、従来の建物型の駅舎とは異なり、公園のように気軽に立ち寄れる、明るい自然に包まれた憩いの場所となります。

駅舎空間のゾーニング
「森」は、半屋外テラス、大きな待合ゾーン、賑わいの少ない静かな待合ゾーン、鉄道・ハイヤースタッフの休憩ゾーンなど、様々な場所をつくりだします。また、駅前広場や交流広場、タクシー・ハイヤー乗降場のシェルター空間としても機能します。

富岡製糸場を想起させる細長い形状のレンガの床
環境広場と連続した細長い形状にレンガの床を敷き詰めます。富岡製糸場の細長いプロポーションとフランス積みで敷かれるレンガという素材が、富岡製糸場を想起させる空間をつくり出します。

- 建築と森が補い合って生み出す新しい都市環境

近代技術の象徴として、従来の駅舎空間は機能美に基づく架構空間によってつくられてきました。それに対して、これからの駅舎や建築空間として、私たちは、自然と人工物の共存によってつくられる「明るい空間」を提案します。「森」は採光を調整し、夏季は直射日光を防ぎ、冬季は日射を取り込み暖かい空間をつくります。「森」に包まれた「明るい空間」は、ランニングコストを抑え、環境に配慮した快適な空間をつくることができます。

県産の様々な樹種
「明るい森」は、群馬県産の様々な樹種によって構成されます。落葉樹によって、季節にあわせた採光を可能とし、常緑樹によって、トイレや休憩室などのプライバシーを確保します。季節によって、彩りのある駅舎をつくると同時に、地域の人たちによって管理、維持されることで、交流がうまれ、地域に根付いた「森」となります。

- 「明るい森」に溶け込む構造

ガラスボックスは、鉛直力を負担する「鉄骨内臓のガラスサンドイッチフレーム」と水平力を負担する「ガラス耐力壁」によって構築します。「ガラスサンドイッチフレーム」は、25mmの鉄板(柱成300mm、梁成200mm)にレーザー加工を施してつくったラチス材(斜め材の見付け幅5mm)をガラスでサンドイッチしたもので、2.5~3.0mピッチで建物全体に配されます。また、「ガラス耐力壁」には、19mmの強化ガラスを用います。ラチス材による透けと、ガラスの反射と透明性により、「明るい森」に溶け込みます。

平面図(PDF)