細い糸のような構造材でつくる駅舎。生糸の特性を建物の作り方に応用する。
今回、富岡にゆかりのある「シルクの生糸」に着目しました。「シルクの生糸」は、「優れた保温性」と「独特の光沢感」を持つ自然素材です。 この特性は生糸の「フィブロイン」という極細の繊維の特徴によるものです。繊維の隙間に空気が溜まる事で、保温性が生まれます。また丸みを帯びた3角形断面が「光のプリズム効果」を生み出し「独特の光沢感」を生み出します。この生糸の特性を駅舎の構造に応用し、「糸の細さ」「しなやかさ」「光沢感」を感じさせる駅舎を提案します。
「倉庫のような形」「赤煉瓦」そして「糸で出来たような建物」これらが富岡製糸場の玄関口にふさわしい「富岡らしさ」に繋がると考えます。建物は、ホームから、駅舎を抜け、町に出て行く、その一連の繋がりを重視し南北にオープンな作りです。構造の要となる鉄筋コンクリートのリブ付きの壁は、連続性を阻害しない東と西の端部に建て、懸垂曲線のケーブルを架け渡し屋根を支えます。屋根をケーブル構造とする事で自重を軽くし、地震による影響を最小限とします。また東西方向に等間隔に並べた吹上抵抗用フレームがケーブルの過大な変形を防止します。隣接した吹上抵抗用ケーブルの間にガラス面を支える「糸のような構造材」を並べ、短期の風荷重を負担する構造材でもありながら建物の光や、暑さ、寒さを調整する環境的役割も担います。
生糸の特性を基に細い鋼材を束ねた「糸のような構造材」その隙間のある3角形断面が光のプリズム効果を生み出し、シルクの光沢感を建物で実現します。また角度を変えて並べる事で、光の反射が多様になり、室内に様々な光の表情を見せます。「外壁ガラス面」と「糸のような構造材」の間に空気層をつくり、太陽の光によって暖められた空気を建物で利用し、夏は建物の最上部から排熱し「煙突効果」を作り出す事で自然の空気の循環を促し、冬は暖められた空気が床下まで戻り「ベース暖房」として再利用します。
駅舎のベンチ・サインボード・日よけシェードなど駅舎のインテリアを構成するものは全て「糸」でつくります。「糸で駅ができたのだから」・・・「このような物も糸でつくれないか?」市民ワークショップ、地元の糸の専門家、地元企業など様々な形で広げる事ができればもう一度「富岡に糸の文化」を咲かせる事に繋がると思います。
富岡製糸場の世界遺産登録をキッカケに富岡は滞在型の町に変えていきたいという方針が打ち出されています。しかし東京から2時間の距離、伊香保・草津・軽井沢など近隣には富岡よりも魅力的な滞在型のコンテンツを持った地域があるなど、富岡製糸場が世界遺産に登録されても、最終目的地ではなく、通過点になってしまうのではないか・・・そのような危惧を抱きました。世界遺産登録は町の根本的な問題解決にならない恐れがあり、もう少し広域的な視点、産業創出的な視点を持たないと町は衰退の一途をたどる可能性もあるかと思います。そこで「生糸」というものをキーワードにしました。「養蚕」「製糸」「織物」といった絹を取り巻く「糸の文化」は桐生など群馬一体に分布しており、富岡だけにとどまらずに、その魅力を周辺地域に波及させる事が必要と考えたからです。
そのキッカケ作りに・・・この駅舎建設は繋がると考えました。